十文字川の戦い(後編)

「タッタッ・・・」
兵達が忙しく走り回っている。十文字川を制圧したというのに、休んでいる者は少ない。
だが、セイドは休んでいた。ソルジャー、ソローも。もちろん、チェリー、アイリーンもだ。ギフトだけ、なぜかこき使われている。
「そうか。被害はやはり、我が軍の方が多いか・・・。」
アーミィである。被害報告を聞いて、こう呟いた。
最後に来た、ゼロス軍による被害がどれほどのものかを実感した。
「さすがは、ゼロス・・・か。」
思わずそう言ってしまった。
「ゼロスほどの者なら、あんなあっさりと退くはずがない。奇襲でもしてくるだろうな。」
予想は得意だ。
今、アーミィの目には、さっきまで眠りこけていた兵士が、蹴り起こされることが入った。だが、笑えない。笑っている余裕などない。
「もし、この状況のままで敵軍が来たら、どうするか。奇襲なんてやられたら、混乱する。・・・セイドとソルジャーに言っておくか。あいつらなら、なんとかしてくれるだろう。」
と、考えたそのとき
「国王、ちょっと用があるんだが・・・。」
ソルジャーが来た。セイドはいない。
「ソルジャー、用とはなんだ?」
「何、簡単なことだ。俺の妻に戦で偶然会ってな。それで、妻を兵士として、軍に入れてほしい。ただ、これだけのことだ。」
「そう、簡単に言うな。おまえの妻なら戦えるだろうが、食料などは、お前がよく食うせいで、無くなって来ている。ソルジャーの、その食欲を抑えてくれたらいいんだがな。」
「わかった。食欲は出来るだけ抑える。だから、妻を入れてくれるだろう?」
「ああ、そうだな。・・・そうだ。ソルジャー、敵が奇襲してくるかもしれん。お前とセイドでそれを出来るだけ抑えろ。出来れば敗走させてもいいぞ。」
「おお!そりゃありがたい。さーて、この薙刀の錆になるのはどいつだ?」
ソルジャーは、戦いが出来るので喜んでいる。
「さっそく、行ってもらうぞ。ソルジャーは南側、セイドは東側だ。よく憶えとけ。」
「わかった。」
と言って、天幕から去っていった。
その夜、ゼロス軍はまさに、奇襲をかけようとしているところだった。
「いいな。最初は騎馬の速さに任せろ。敵陣に火を放ったら、すぐに退け。」
ゼロスである。実際、ゼロスは奇襲の指揮をするだけで、実際の奇襲には、参加していないに等しい。現に、武器も、今は帯剣しかしていない。
「よし。まだ、忙しそうにせっせと働いている。一気に行け!」
ゼロスは命令すると、少数の騎兵が馬を走らす。鞭の音が痛々しく響く。
ゼロスはその様子を見ると、去ってしまった。奇襲部隊など、ただの捨て駒に過ぎなかったのだ。最も、これ以上策は用意していないが。
「敵襲!敵襲!」
どこからか声がした。半ば、悲鳴混じりの叫び声が。
「もう来たか。まあいい。全軍、配置につけ!」
アーミィが天幕から出てきて、言った。
だが、その声は、混乱した兵士には届かず、命令に従った者は少ない。
「ちっ・・・ギフト、戦だ!お前の好きな戦だ!早く来い!」
そう叫ぶと、ギフトが名前を呼ばれた犬の如し速さで、駆けつけた。
「ギフト、奇襲部隊を片付けて来い。」
「おう。」
ギフトは走っていった。
奇襲部隊は少数とは言え、騎兵なのですぐ逃げられることも考えられる。が、ソルジャーを前には逃げられなかった。セイドは戦いにくそうに剣を振る。短いので近くまで行かないと、馬上に届かない。
またしても、血の雨が降る。
そして、奇襲部隊を全滅させた。
「敵奇襲部隊、全滅させたぞ!」
ソルジャーの叫びは、全軍の士気を高めた。戦の終わった後だが。
血に染まった騎兵は、松明の明かりに照らされていた。月が血に映り、血に染まった真っ赤な鎧は、月光を反射させていた。

奇襲

復讐

タンタン・・・」
ゼロスは足を鳴らしていた。イラついているのである。
「奇襲は失敗。ただ、兵が死んだだけ。・・・何の得も無い。それどころか、敵軍の士気が高まっている。敵に得をさせただけではないか。」
奇襲失敗だけがイラついている理由ではないらしい。
「ゼロス将軍、あんな少数での奇襲でしたから、失敗したのでしょう。」
傍らのマッチが言った。
「少数?我が軍は兵力が少ない。あれしか出せないのだ。奴らとの戦いで、かなり兵士が減った。何故か、援軍も出てこない。無駄に攻撃しない方がいいのだろう。」
「しかし、このまま何の攻撃もしなければ、我が軍の士気は大幅に落ちます。」
ゼロスの目の前にいるフレイムが言った。
「・・・攻撃すれば失敗。攻撃しなければ士気が下がる。・・・どうしようもない。奴らに備えておくしかできん。」
「では、私に兵をお貸しください。数百でいいです。その兵で正面から攻撃します。」
フレイムが無謀なことを言った。
「フレイム、征北将軍のお前が死ねば、我が軍の士気は更に減る。・・・成功すると誓うか?」
「はい。必ず成功します。ただ、敵に攻撃し、すぐさま退くだけですから。」
「そうか。成功を祈る。」
ゼロスが言い終わると、フレイムは下がっていった。
「(・・・これに成功しなければ、首が飛ぶ。何としても成功させなければ)。」
フレイムは責任感がある。それが重くのしかかって来た。
フレイムは王宮を出て、兵舎まで行った。
合図をすると、その近くの兵士がぞくぞくと集まってくる。
フレイムはその中から、決死隊に入ることを望む騎兵を呼んだ。・・・三百程度の騎兵が集まった。これを決死隊とし、フレイムはセイクレッド陣へ突撃させた。
セイクレッド陣は近い。思わず馬を早める。
セイクレッド陣へ着いたら、果たして生きれるだろうか?そんな思いが決死隊の兵の頭をよぎる。
だが、馬は走るばかり。誰も止めようとしない。
兵士と同じことを、フレイムも考えていた。
「もうすぐセイクレッド陣だ。皆、死を覚悟の上で戦え。これは命令だ。」
フレイムの命令は兵士を思ってのものだ。
セイクレッド陣が見える。兵士達の不安もつのるばかり。
セイクレッド軍が気づいたようだ。身構えている。
「あの程度、軽くつぶしてやれ!」
フレイムが言った。決死隊の士気が上がる。
セイクレッド軍へ攻撃した。敵は全く油断していない。決死隊には、油断などする余裕もない。
フレイムの槍が、兵の鎧を貫く。悲鳴が戦場に響き渡るが、他の兵士の悲鳴もあるので、聞こえない。
決死隊の兵は、仲間のことなど気にする余裕もない。自分のことで精一杯なのだ。
きつい戦いだが、なんとか生き延びている。セイクレッド軍の士気も下がってきているので、決死隊は退却を開始した。敵も追ってこない。
フレイムの正面攻撃は成功した。決死隊の被害も少ない。これで、ゼロスに会わせる顔がある。
フレイムは馬を走らせながら
「皆、よくやった。これで、我が軍にも勝機が見えて来た。お前達には、この成功に等しい位を授かることが出来るだろう。」
と感謝した。
決死隊は、達成感に満ちていた。その達成感は、満面の笑みを浮かべさせる。